2013年 11月 14日
元市長の逮捕拘留期間中の給与支給に関する住民訴訟が判例タイムズに掲載されていました |
最近分かったことですが、元市長の逮捕拘留期間中の給与支給に関する住民訴訟が判例タイムズNo1254 118ページに掲載されていました。
その解説は以下の通りです。
《解説》
1 事案の概要
本件は,和泉市の住民である原告らが,和泉市の前市長(以下「前市長」という。)が逮捕・勾留され,職務を執行することができない状態であったにもかかわらず,和泉市から給与の支払いを受けていたのは違法であると主張して,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,被告に対して,前市長に逮捕・勾留後の期間の給与に相当する額の不当利得返還請求をすることを求める住民訴訟である。
本件の争点は,逮捕・勾留中の前市長に対する給与の支払いが違法か否かであり,具体的には,和泉市特別職の職員の給与に関する条例(以下「特別職給与条例」という。)8条1項が「特別職の職員の給料の支給方法に関し,この条例に定めのない事項については,一般職の職員の例による。」と規定していることから,前市長に対して,和泉市職員の給与に関する条例(以下「職員給与条例」という。)29条の正規の勤務時間に職員が勤務しなかったときは,給与を減額するとの規定が準用されるか否かである。
2 本判決の要旨
本判決は,特別職給与条例が特別職の地位の特殊性を踏まえて制定されたものであることから,特別職給与条例8条1項によって準用できる規定か否かは,当該特別職の地位の特殊性に,職員給与条例中の各規定の文言,趣旨及び目的を併せて考えた上で,各規定ごとに決せられるべきであるとした。
その上で,本判決は,「職員給与条例29条の趣旨は,職員が所定の勤務を欠いた場合に給与を減額することを定めた規定であり,勤務の裏付けのない給与は原則として認められるべきではないとする『ノーワーク・ノーペイの原則』を具体化したものと解される」とし,同条の減額規定は,勤務と給料との間に具体的な対価性があることを前提とした規定である」とした。そして,市長の勤務と給料の関係について,「市長に対しては,具体的な勤務の対価として,給料が支払われているというよりも,むしろ,実質的には市長という地位そのものに対する対価ないし報酬として給料が支払われているものと解される」とし,勤務と給料との間に具体的な対価性がある者(一般職の職員)を前提とした職員給与条例29条は,市長には準用されないとし,逮捕・勾留中の給料の支給が違法とはいえないとした。
3 解説
本判決は,職員給与条例29条がノーワーク・ノーペイの原則を定めたものと解した上で,これと同様にノーワーク・ノーペイの原則を定めたと解される一般職の職員の給与に関する法律15条の趣旨が,公務員に労働時間制度とそれを超えた場合の超過勤務手当等の制度が確立され,それらと表裏をなすものとして制定された点にある(尾崎朝夷ほか『公務員給与法精義〔第3次全訂版〕』464頁参照)ことから,職員給与条例29条も勤務時間,休日等が定められ,それらに応じた時間外勤務手当,休日勤務手当,夜間勤務手当が認められていることの裏返しとして,勤務時間に勤務しない場合には給料を減額すると定めたものであり,勤務と給料との間に具体的な対価性があることを前提にした規定であると解した。そして,市長の勤務と給料との関係について,市長の職務の特殊性を重視し,市長という地位そのものに対する対価ないし報酬として給料が支払われているものと解し,勤務との具体的な対価性を前提にしたノーワーク・ノーペイの原則は市長には妥当しないとしたものであり,市長と一般職の職員の給料の性質を同一には考えられないことを前提としている。また,本判決は,判示では,直接は触れていないが,仮に,市長に対して,職員給与条例が準用されると解した場合,いかなる場合に市長が「勤務しなかった」と評価するのか,勤務時間の定めのない市長の職務の給料をどのような割合で減額するのか等の困難な問題が生じることも考慮し,本判決のような結論に至ったものと思われる。
本件と同様に,逮捕・勾留中の地方公共団体の長の給与の支給の違法性が争われ,給与の支給を違法と判断した裁判例として,岐阜地判平15.11.26(公刊物未登載)がある。同判決は,町長の給料についても勤務に対する対価である以上,ノーワーク・ノーペイの原則が妥当すると解し,逮捕・勾留中の給料の支給を違法と判示しているが,本判決とは,地方公共団体の長の給料の性質についての考え方を異にしていると思われる。
本判決は,地方自治体の長が逮捕・勾留され,その期間中支払われた給与の支給の適法性について判断したものであり,実務上参考になると思われるので,ここに紹介する次第である。なお,本判決の控訴審である大阪高等裁判所は平成19年7月27日に原告らの控訴を棄却するとの判決をし,これにより本件は確定している。
(関係人一部仮名)
その解説は以下の通りです。
《解説》
1 事案の概要
本件は,和泉市の住民である原告らが,和泉市の前市長(以下「前市長」という。)が逮捕・勾留され,職務を執行することができない状態であったにもかかわらず,和泉市から給与の支払いを受けていたのは違法であると主張して,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,被告に対して,前市長に逮捕・勾留後の期間の給与に相当する額の不当利得返還請求をすることを求める住民訴訟である。
本件の争点は,逮捕・勾留中の前市長に対する給与の支払いが違法か否かであり,具体的には,和泉市特別職の職員の給与に関する条例(以下「特別職給与条例」という。)8条1項が「特別職の職員の給料の支給方法に関し,この条例に定めのない事項については,一般職の職員の例による。」と規定していることから,前市長に対して,和泉市職員の給与に関する条例(以下「職員給与条例」という。)29条の正規の勤務時間に職員が勤務しなかったときは,給与を減額するとの規定が準用されるか否かである。
2 本判決の要旨
本判決は,特別職給与条例が特別職の地位の特殊性を踏まえて制定されたものであることから,特別職給与条例8条1項によって準用できる規定か否かは,当該特別職の地位の特殊性に,職員給与条例中の各規定の文言,趣旨及び目的を併せて考えた上で,各規定ごとに決せられるべきであるとした。
その上で,本判決は,「職員給与条例29条の趣旨は,職員が所定の勤務を欠いた場合に給与を減額することを定めた規定であり,勤務の裏付けのない給与は原則として認められるべきではないとする『ノーワーク・ノーペイの原則』を具体化したものと解される」とし,同条の減額規定は,勤務と給料との間に具体的な対価性があることを前提とした規定である」とした。そして,市長の勤務と給料の関係について,「市長に対しては,具体的な勤務の対価として,給料が支払われているというよりも,むしろ,実質的には市長という地位そのものに対する対価ないし報酬として給料が支払われているものと解される」とし,勤務と給料との間に具体的な対価性がある者(一般職の職員)を前提とした職員給与条例29条は,市長には準用されないとし,逮捕・勾留中の給料の支給が違法とはいえないとした。
3 解説
本判決は,職員給与条例29条がノーワーク・ノーペイの原則を定めたものと解した上で,これと同様にノーワーク・ノーペイの原則を定めたと解される一般職の職員の給与に関する法律15条の趣旨が,公務員に労働時間制度とそれを超えた場合の超過勤務手当等の制度が確立され,それらと表裏をなすものとして制定された点にある(尾崎朝夷ほか『公務員給与法精義〔第3次全訂版〕』464頁参照)ことから,職員給与条例29条も勤務時間,休日等が定められ,それらに応じた時間外勤務手当,休日勤務手当,夜間勤務手当が認められていることの裏返しとして,勤務時間に勤務しない場合には給料を減額すると定めたものであり,勤務と給料との間に具体的な対価性があることを前提にした規定であると解した。そして,市長の勤務と給料との関係について,市長の職務の特殊性を重視し,市長という地位そのものに対する対価ないし報酬として給料が支払われているものと解し,勤務との具体的な対価性を前提にしたノーワーク・ノーペイの原則は市長には妥当しないとしたものであり,市長と一般職の職員の給料の性質を同一には考えられないことを前提としている。また,本判決は,判示では,直接は触れていないが,仮に,市長に対して,職員給与条例が準用されると解した場合,いかなる場合に市長が「勤務しなかった」と評価するのか,勤務時間の定めのない市長の職務の給料をどのような割合で減額するのか等の困難な問題が生じることも考慮し,本判決のような結論に至ったものと思われる。
本件と同様に,逮捕・勾留中の地方公共団体の長の給与の支給の違法性が争われ,給与の支給を違法と判断した裁判例として,岐阜地判平15.11.26(公刊物未登載)がある。同判決は,町長の給料についても勤務に対する対価である以上,ノーワーク・ノーペイの原則が妥当すると解し,逮捕・勾留中の給料の支給を違法と判示しているが,本判決とは,地方公共団体の長の給料の性質についての考え方を異にしていると思われる。
本判決は,地方自治体の長が逮捕・勾留され,その期間中支払われた給与の支給の適法性について判断したものであり,実務上参考になると思われるので,ここに紹介する次第である。なお,本判決の控訴審である大阪高等裁判所は平成19年7月27日に原告らの控訴を棄却するとの判決をし,これにより本件は確定している。
(関係人一部仮名)
by onbuz
| 2013-11-14 08:28
| 市長給与住民訴訟