2006年 11月 24日
監査委員の監査請求再び却下に |
議会事務局が市議へ市民の葬儀情報を提供している件に関し、監査請求したのに対し、他の自治体の監査結果を丸写しで監査としたことを不当として請求したのが今回却下された監査請求です。
これは一度却下の通知があったのですが、却下の理由がないとして一部補正を加えて行った再度の監査請求に対し、今回再び却下の通知が届きました。
今回民間から新しい監査委員を迎え、本来機能すべき監査が実現するものと期待していましたが見事に裏切られました。これでは全く従来と変わりがありません。
監査委員はその独立した地位が保障されています。地方自治法では監査委員を罷免するには、議会の同意と委員会での公聴会が義務づけられています。それほどこの地位は保障されたものとなっているということです。
監査委員は監査にあたっては厳正かつ中立に全力をあげてこれにあたることが求められ、かつ監査機能の性格上、場合によっては行政とは対立する軸を明確にし、監査にあたらねばなりません。行政に追従したり、監査に手心を加えることは厳に慎むべき事です。まして身内の監査委員又はそのスタッフについての監査にあたっては特に厳正な対処が求められます。
その様に考えると、他の自治体の監査結果を丸写しにし、それに対する監査請求に対し不当に門前払いすることは許されることではありません。
特に私が怒りに思うのは、他の自治体の監査結果をコピーしても、請求人には分かるはずがないと思ってこの様な監査をしたと思われるからです。分からなければ何をしても良いという考え方はとんでもないことで、いわんや厳正を求められ、識見を有するとして任用された監査委員にとっては尚更です。
今回の却下について、その不当性を述べてみます。
(1)監査請求の却下の不当性について
住民監査請求は、住民から監査の端緒を受けるものであるという性格から、その却下は余程のことが無いと出来ないことになっています。受け付けるのが原則なのです。これについて最高裁の判例では、少数意見であるが(判決について少数意見ということで、この事について少数の意見というわけではない)で次のように言っています。
裁判年月日 平成2年06月05日 法廷名 最高裁判所第三小法廷 における裁判官園部逸夫の反対意
<裁判官園部逸夫の反対意見>
地方自治法(以下「法」という。)の住民監査請求に関する規定を通覧すると、住民監査請求の手続は、行政不服審査法所定の不服申立て(以下「審査請求」という。)の手続等の場合と異なり、簡易かつ略式の方式で、住民が監査委員に対し、監査の請求をすることができることを予定したものと解するのを相当とする。したがって、住民監査請求については、請求の要件を欠くという理由で直ちに却下することなく、可能な限り、請求を受理して、その内容について監査をし、請求の理由の有無について判断した上、法二四二条三項の定める応答措置を行うべきであり、請求の趣旨も理由も全く不明瞭で監査請求書として受理することが困難な場合に限り、これを返戻することができると解するのが、住民監査請求制度の趣旨に沿うものというべきである。そして、もし、住民監査請求について、却下の措置がとられた場合、裁判所としては、住民監査請求が所定の方式で行われているものである限り、右却下を不服として提起された住民訴訟については、法二四二条の二第一項に基づき、「前条第一項の規定による請求をした場合において」、「監査委員が同条第三項の規定による監査(中略)を同条第四項の期間内に行なわないとき」にされた住民訴訟の請求と解すべきであると考える。
即ち、橋にも棒にもかからないような請求以外はこれを受理しなければならないのです。
(2)却下の理由について
却下の理由は到底納得出来るものではありません。項目毎に理由の不当性を述べます。
①再度の監査請求について
二つの最高裁の判例を引いて、再度の監査請求は認められないと主張していますが、判例の適用を誤ったものです。
監査の通知では今回の監査請求は、当初の監査請求と別個のものとは認められないので再度の監査請求は出来ないとしていることです。確かに同一事項に関する監査請求ですが、これが認められないのはあくまで当初の監査請求に関し、監査を行いその結果を請求人に通知したときに成り立つもので、当初の監査請求が却下され、監査が行われなかった時は、この制限は適用できません。以下の判例でも明らかです。
事件番号:昭和57年(行ツ)第164号
事件名 :町有財産売却処分違法確認等請求及び共同訴訟参加事件
裁判所 :最高裁判所第2小法廷
判決日 : 昭和62年2月20日
地方自治法(以下「法」という。)二四二条一項の規定による住民監査請求に対し、同条三項の規定による監査委員の監査の結果が請求人に通知された場合において、請求人たる住民は、右監査の結果に対して不服があるときは、法二四二粂の二第一項の規定に基づき同条の二第二項一号の定める期間内に訴えを提起すべきものであり、同一住民が先に監査請求の対象とした財務会計上の行為又は怠る事実と同一の行為又は怠る事実を対象とする監査請求を重ねて行うことは許されていないものと解するのが相当である。
更に最高裁判例平成14年7月2日を引用し、今回の監査請求は怠る事実に関する監査請求ではないとしている点です。判例の解釈を完全に誤ったものです。引用した判例は以下で
事件番号:平成10年(行ヒ)第51号
事件名 :損害賠償代位請求事件
裁判所 :最高裁判所第3小法廷
判決日 : 平成14年7月2日
では、
怠る事実を対象としてされた監査請求であっても,特定の財務会計上の行為が財務会計法規に違反して違法であるか又はこれが違法であって無効であるからこそ発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実を対象とするものである場合には,当該行為が違法とされて初めて当該請求権が発生するのであるから,監査委員は当該行為が違法であるか否かを判断しなければ当該怠る事実の監査を遂げることができないという関係にあり,これを客観的,実質的にみれば,当該行為を対象とする監査を求める趣旨を含むものとみざるを得ず,当該行為のあった日又は終わった日を基準として本件規定を適用すべきものである(前掲最高裁昭和62年2月20日第二小法廷判決参照)。
とされ、監査の通知では結論部分である斜線部が欠落しています。即ちこの判決は怠る事実であっても、上記のような場合は1年の監査請求に期間制限が適用されることを判示したものであり、怠る事実の請求とは認められないとの主張は全く的はずれなものです。
②地位に対して報酬を支給することについて
監査委員が監査委員としての地位を有している以上、報酬を支給せねばならないとしています。
しかし
(松本英昭著 『新版 逐条地方自治法 第3次改訂版 p.641』)。によれば
「報酬」とは、広義では一定の役務の対価として与えられる反対給付をいうが、本条の報酬は、非常勤の職員が行う勤務に対する反対給付を意味し、常勤の職員に対する給料と区別される。
とし、更に
非常勤職員(短時間勤務職員は除かれる。)に対する報酬の支給は勤務日数に応じてこれを支給する。このことは非常勤職員に対する報酬が常勤職員に対する給料と異なり、いわゆる生活給たる意味は全く有せず、純粋に勤務に対する反対給付としての性格のみをもつものであり、したがつて、それは勤務量、すなわち、具体的には勤務日数に応じて支給されるべきものであるとする原則を明らかにしたのである。しかし、実際問題としては、非常勤職員の中にも勤務の実態が常勤職員とほとんど同様になされなければならないものがあり、その報酬も月額或いは年額をもつて支給することがより適当であるものも少なくなく、常にこの原則を貫くことが困難な場合も考えられるので、ただし書を設け、条例で特別の定めをすれば勤務日数によらないことができるものとされている。
としており、月額で支給するものであっても、勤務の対価として報酬が支払われるものであることは明らかです。その地位に対して支給すべきとされるものではありません。
③他の自治体の監査結果をコピーしたことについて
二点目は、他に自治体の監査結果をコピーした事についてです。「同種案件に関する他に自治体の監査結果を参考にすることや、的確な記述があれば同様な記述をすることは違法ではない」と言っています。
しかしながらこのコピーしたところは監査委員の判断を記述するところで、その中の4つの項目の全てに他の自治体の監査結果をコピーしたことは、参考にするという程度の話でなく、引用した自治体の了解を得ていない事からも盗用といっても良いほど悪質です。引用するとしても、引用の了解を得た上引用する監査結果を述べ、それを本件にあてはめたときにこの様に判断するとして初めて自ら下した監査委員の判断となります。
あたかも自分の判断かのように他の自治体の監査結果をコピーすることは、違法であるとか無いとか以前の監査委員の倫理観の問題であります。
更に監査結果には「その記述の内容と全く異なる記述をもって記載しなければならないという理由もないことから、違法、不当とまでいえるものではない。」としています。開き直りとも思われる主張です。
このような監査を行った背景には、住民監査請求に対する真摯な気持ちが欠如していることがあります。市民が心血を注いでおこした監査請求に対する、畏敬の気持ちが全く見られません。
③監査請求の実質的目的について
監査結果には「請求人の主張は、監査事務の執行上の問題から前監査委員を監査委員として任用することが適当でない旨主張しているに過ぎないものであって、住民監査請求は、地方公共団体の職員等による違法、不当な財務会計上の行為等の予防、是正等を図り、地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とするものであり、地方公共団体の一般的行政事務の執行の適否や責任の所在を明自にすること自体を本来の目的とするものではない。
以上のことから、本件請求は、地方自治法第242条第1項に規定する財務会計行為等には該当せず、その要件を満たさないものと判断する。」としています。
私は気持ちとしては、前監査委員の的確性に疑問を持っていますが、あくまでこの請求は監査を行わなかった事が違法・不当としてその間の報酬を受ける権利が無いとしておこした請求であり、この監査結果はまさしく拡大解釈で、これをもとに請求を却下することは不当な監査であります。
(3)今後の対応
最早監査委員にこの判断を託すことは困難となりました。
後は司法の判断を仰ぐのが唯一の手段です。訴訟期限は12月15日です。それまで十分考えてみたいと思います。
今回の監査結果(却下の通知)
和泉監第64号
平成18年11月16日
小林洋一様
和泉監査委員 阪広久
同 小野林治三夫
住民監査請求について(通知)
平成18年10月11日付けであなたから提出された地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第1項の規定に基づく住民監査請求につきましては、請求の内容を審査した結果、次の理由により住民監査請求の対象となりませんので通知します。
記
1請求の要旨
本件請求の内容を要約すると次のとおりである。
今般、平成18年9月15日付けで提出した住民監査請求に対して、請求を却下する旨の通知(平成18年10月2日付け和泉監第55号)がありましたが、却下の理由について不服があるので一部補正を加えて再度監査を請求します。
池野監査委員は、本件請求者が請求した平成18年4月5日付け議員への計報提供に関する住民監査請求において、必要な監査を実施せず、他の自治体の監査結果をコピーして監査委員の意見とした。このような行為は監査委員の責任の放棄であって、そのような者に報酬を支給することは不当であり、かつ、この報酬を受領した池野監査委員には、その限りにおいて不当利得を得ている。
和泉市はその返還を請求する権利を有するところ、この返還請求権は債権であって、地方自治法第237条第1項において、財産とは、公有財産、物品、債権、基金をいうとされ、地方公共団体の財産にあたり、報酬の返還を請求する権利を行使しないのは財産の管理を怠る事実であり住民監査請求の対象となるものである。
よって、市長が池野監査委員に対する不当利得の返還請求を怠ることが、違法であることの確認を求める。
なお、再監査請求ができる法的根拠として、最高裁判例平成10年(行ツ)第68号・損害賠償請求事件で以下の判決が出ているものである。
(1)監査委員が適法な住民監査請求を不適法であると却下した場合、当該請求をした住民は、適法な住民監査請求を経たものとして、直ちに住民訴訟を提起することができるのみならず、当該請求の対象とされた財務会計上の行為又は怠る事実と同一の財務会計上の行為又は怠る事実を対象として再度の住民監査請求をすることも許されるものと解すべきである。
(2)監査委員が住民監査請求を不適法であるとして却下した場合、当該請求をした住民が却下の理由に応じて必要な補正を加えるなどして、当該請求に係る財務会計上の行為又は怠る事実と同一の行為又は怠る事実を対象とする再度の住民監査請求に及ぶことは、請求を却下された者として当然の所為ということができる。
2 平成18年9月15日付け監査請求(以下「前回請求と,いう」)
前回請求は、議員への計報提供に関する住民監査請求'(平成18年4月5日付け提出、以下「計報監査」という。)において池野監査委員(以下「前監査委員」という)は必要な監査を実施せず、他の自治体の監査結果を不当にコピーして監査委員の意見としたが、このような行為は住民の市政への直接参加の権利を具現化する住民監査請求制度を蔑ろにする重大な背信行為であり、監査委員の職責を放棄したものであって、このような監査を実施した前監査委員への報酬の支給は違法、不当な公金の支出に当るとして委員報酬の返還を求めたものである。
前回請求における要件審査の結果(平成18年10月2日付和泉監第55号)、請求人の主張は、監査事務執行上の問題や監査委員の職責等を問題としているに過ぎず、いずれも本市の財務会計上の違法若しくは不当な行為を摘示するものではないことから、法第242条に規定する要件を満たさないものと判断し、請求人に通知した。
3地方自治法第242条第1項の要件に係る判断
(1)再度の監査請求
本件新たな住民監査請求において、対象としている返還請求権は、委員報酬の返還を求めた前回請求が不適法であるとして却下されたが、却下の理由に不服があるので、その一部を補正し、違法、不当な報酬を受領した前監査委員に不当利得が生じており、和泉市はその返還権を有しているにもかかわらず、損害賠償請求権(もしくは不当利得返還請求権)を行使しないのは財産の管理を怠る事実であるとして、「怠る事実」を対象として再度請求がなされたものである。
しかしながら、このように財務会計上の行為についてされた住民監査請求の対象と当該行為が違法無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実との関係について最高裁平成62年2月20日判決は、「普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の財務会計上の行為を違法、不当であるとしてその是正を求める住民監査請求は、特段の事情が認められない限り、当該行為が違法、無効であるであることに基づいて発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実についても含まれる」とし、また、「特定の財務会計上の行為が財務会計法規に違反して違法であるか又はこれが違法であって無効であるからこそ発生する実体法上の請求権を怠る事実を対象とするものである場合には、当該行為が違法とされて初めて当該請求権が発生するのであるから、監査委員は当該行為が違法であるか否かを判断しなければ当該怠る事実の監査を遂げることができないという関係にあるときは、当該行為を対象とする監査を求める趣旨を含むものとみざるを得ず」(最高裁平成14年7月2日判決)として、たとえそれが怠る事実につての監査請求として構成されていたとしても、その実質は、当該財務会計上の行為について監査を請求するものであり、怠る事実についての監査請求であるとすることはできないとされている。
これを今回の請求についてみると、前監査委員への報酬の支給という財務会計上の行為が違法、不当であって、そのことに基づいて発生する返還請求権の行使を怠る事実を対象とするものであるが、その実質は、監査委員への報酬の支給という当該財務会計上の行為についての監査を請求するものであり、これらは前回請求における請求の対象に包含され、本件請求において新たに主張する違法、不当事由が前回請求と異なるものの、結局のところ同一の当該行為を対象として重ねて行うものであって、別個の請求と認めることはできない。
(2)対象となる財務会計上の行為
そうすると、本件請求は違法・不当な公金の支出を対象として提出されたものと解されるに、監査委員の報酬等に関する法の規定をみると、地方自治法第203条は、監査委員等に対して報酬を支給しなければならないこと(第1項)、報酬の額並びに支給方法は条例でこれを定めなけばならないこと(第5項)が規定され、本市においては、この規定を受けた「特別職の職員で非常勤のものの報酬及び費用弁済に関する条例」に基づき支給されているが、監査委員に報酬等を支給すべきかどうかは、その支給が法律及び条例に適合するものかどうかによって判断されるものであり、前監査委員が監査委員としての地位を有していた以上、市長は報酬等を支給しなければならず、同条例に照らし違法に報酬が支給されたという事実もない。また、それらを疎明する事実証明の提出もないことや、監査が行われなかったという事実も存在しないことから、そもそも当該財務会計上の行為が法令上違反か否かの問題はなく、請求の対象を欠くというべきである。
(3)他の自治体の監査結果のコピーについて
請求人は、計報監査に関する監査結果は、他の自治体の監査結果をコピーしたものであり違法、不当である旨主張するが、監査委員が監査を行い、当該請求に理由があるかないかの結論を導くにあたって、同種案件に関する他の自治体の監査結果の内容や記述等も参考にすることや、その中に的確、適切な記述がなされている場合に、これをふまえてその記述と同様な記述をしたとしても、そのこと自体に明白な違法性は認められず、その記述の内容と全く異なる記述をもって記載しなければならないという理由もないことから、違法、不当とまでいえるものではない。
ところで、本件請求書の記載内容等を客観的、実質的に判断するに、つまると,ころ請求人の主張は、監査事務の執行上の問題から前監査委員を監査委員として任用することが適当でない旨主張しているに過ぎないものであって、住民監査請求は、地方公共団体の職員等による違法、不当な財務会計上の行為等の予防、是正等を図り、地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とするものであり、地方公共団体の一般的行政事務の執行の適否や責任の所在を明自にすること自体を本来の目的とするものではない。
以上のことから、本件請求は、地方自治法第242条第1項に規定する財務会計行為等には該当せず、その要件を満たさないものと判断する。
これは一度却下の通知があったのですが、却下の理由がないとして一部補正を加えて行った再度の監査請求に対し、今回再び却下の通知が届きました。
今回民間から新しい監査委員を迎え、本来機能すべき監査が実現するものと期待していましたが見事に裏切られました。これでは全く従来と変わりがありません。
監査委員はその独立した地位が保障されています。地方自治法では監査委員を罷免するには、議会の同意と委員会での公聴会が義務づけられています。それほどこの地位は保障されたものとなっているということです。
監査委員は監査にあたっては厳正かつ中立に全力をあげてこれにあたることが求められ、かつ監査機能の性格上、場合によっては行政とは対立する軸を明確にし、監査にあたらねばなりません。行政に追従したり、監査に手心を加えることは厳に慎むべき事です。まして身内の監査委員又はそのスタッフについての監査にあたっては特に厳正な対処が求められます。
その様に考えると、他の自治体の監査結果を丸写しにし、それに対する監査請求に対し不当に門前払いすることは許されることではありません。
特に私が怒りに思うのは、他の自治体の監査結果をコピーしても、請求人には分かるはずがないと思ってこの様な監査をしたと思われるからです。分からなければ何をしても良いという考え方はとんでもないことで、いわんや厳正を求められ、識見を有するとして任用された監査委員にとっては尚更です。
今回の却下について、その不当性を述べてみます。
(1)監査請求の却下の不当性について
住民監査請求は、住民から監査の端緒を受けるものであるという性格から、その却下は余程のことが無いと出来ないことになっています。受け付けるのが原則なのです。これについて最高裁の判例では、少数意見であるが(判決について少数意見ということで、この事について少数の意見というわけではない)で次のように言っています。
裁判年月日 平成2年06月05日 法廷名 最高裁判所第三小法廷 における裁判官園部逸夫の反対意
<裁判官園部逸夫の反対意見>
地方自治法(以下「法」という。)の住民監査請求に関する規定を通覧すると、住民監査請求の手続は、行政不服審査法所定の不服申立て(以下「審査請求」という。)の手続等の場合と異なり、簡易かつ略式の方式で、住民が監査委員に対し、監査の請求をすることができることを予定したものと解するのを相当とする。したがって、住民監査請求については、請求の要件を欠くという理由で直ちに却下することなく、可能な限り、請求を受理して、その内容について監査をし、請求の理由の有無について判断した上、法二四二条三項の定める応答措置を行うべきであり、請求の趣旨も理由も全く不明瞭で監査請求書として受理することが困難な場合に限り、これを返戻することができると解するのが、住民監査請求制度の趣旨に沿うものというべきである。そして、もし、住民監査請求について、却下の措置がとられた場合、裁判所としては、住民監査請求が所定の方式で行われているものである限り、右却下を不服として提起された住民訴訟については、法二四二条の二第一項に基づき、「前条第一項の規定による請求をした場合において」、「監査委員が同条第三項の規定による監査(中略)を同条第四項の期間内に行なわないとき」にされた住民訴訟の請求と解すべきであると考える。
即ち、橋にも棒にもかからないような請求以外はこれを受理しなければならないのです。
(2)却下の理由について
却下の理由は到底納得出来るものではありません。項目毎に理由の不当性を述べます。
①再度の監査請求について
二つの最高裁の判例を引いて、再度の監査請求は認められないと主張していますが、判例の適用を誤ったものです。
監査の通知では今回の監査請求は、当初の監査請求と別個のものとは認められないので再度の監査請求は出来ないとしていることです。確かに同一事項に関する監査請求ですが、これが認められないのはあくまで当初の監査請求に関し、監査を行いその結果を請求人に通知したときに成り立つもので、当初の監査請求が却下され、監査が行われなかった時は、この制限は適用できません。以下の判例でも明らかです。
事件番号:昭和57年(行ツ)第164号
事件名 :町有財産売却処分違法確認等請求及び共同訴訟参加事件
裁判所 :最高裁判所第2小法廷
判決日 : 昭和62年2月20日
地方自治法(以下「法」という。)二四二条一項の規定による住民監査請求に対し、同条三項の規定による監査委員の監査の結果が請求人に通知された場合において、請求人たる住民は、右監査の結果に対して不服があるときは、法二四二粂の二第一項の規定に基づき同条の二第二項一号の定める期間内に訴えを提起すべきものであり、同一住民が先に監査請求の対象とした財務会計上の行為又は怠る事実と同一の行為又は怠る事実を対象とする監査請求を重ねて行うことは許されていないものと解するのが相当である。
更に最高裁判例平成14年7月2日を引用し、今回の監査請求は怠る事実に関する監査請求ではないとしている点です。判例の解釈を完全に誤ったものです。引用した判例は以下で
事件番号:平成10年(行ヒ)第51号
事件名 :損害賠償代位請求事件
裁判所 :最高裁判所第3小法廷
判決日 : 平成14年7月2日
では、
怠る事実を対象としてされた監査請求であっても,特定の財務会計上の行為が財務会計法規に違反して違法であるか又はこれが違法であって無効であるからこそ発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実を対象とするものである場合には,当該行為が違法とされて初めて当該請求権が発生するのであるから,監査委員は当該行為が違法であるか否かを判断しなければ当該怠る事実の監査を遂げることができないという関係にあり,これを客観的,実質的にみれば,当該行為を対象とする監査を求める趣旨を含むものとみざるを得ず,当該行為のあった日又は終わった日を基準として本件規定を適用すべきものである(前掲最高裁昭和62年2月20日第二小法廷判決参照)。
とされ、監査の通知では結論部分である斜線部が欠落しています。即ちこの判決は怠る事実であっても、上記のような場合は1年の監査請求に期間制限が適用されることを判示したものであり、怠る事実の請求とは認められないとの主張は全く的はずれなものです。
②地位に対して報酬を支給することについて
監査委員が監査委員としての地位を有している以上、報酬を支給せねばならないとしています。
しかし
(松本英昭著 『新版 逐条地方自治法 第3次改訂版 p.641』)。によれば
「報酬」とは、広義では一定の役務の対価として与えられる反対給付をいうが、本条の報酬は、非常勤の職員が行う勤務に対する反対給付を意味し、常勤の職員に対する給料と区別される。
とし、更に
非常勤職員(短時間勤務職員は除かれる。)に対する報酬の支給は勤務日数に応じてこれを支給する。このことは非常勤職員に対する報酬が常勤職員に対する給料と異なり、いわゆる生活給たる意味は全く有せず、純粋に勤務に対する反対給付としての性格のみをもつものであり、したがつて、それは勤務量、すなわち、具体的には勤務日数に応じて支給されるべきものであるとする原則を明らかにしたのである。しかし、実際問題としては、非常勤職員の中にも勤務の実態が常勤職員とほとんど同様になされなければならないものがあり、その報酬も月額或いは年額をもつて支給することがより適当であるものも少なくなく、常にこの原則を貫くことが困難な場合も考えられるので、ただし書を設け、条例で特別の定めをすれば勤務日数によらないことができるものとされている。
としており、月額で支給するものであっても、勤務の対価として報酬が支払われるものであることは明らかです。その地位に対して支給すべきとされるものではありません。
③他の自治体の監査結果をコピーしたことについて
二点目は、他に自治体の監査結果をコピーした事についてです。「同種案件に関する他に自治体の監査結果を参考にすることや、的確な記述があれば同様な記述をすることは違法ではない」と言っています。
しかしながらこのコピーしたところは監査委員の判断を記述するところで、その中の4つの項目の全てに他の自治体の監査結果をコピーしたことは、参考にするという程度の話でなく、引用した自治体の了解を得ていない事からも盗用といっても良いほど悪質です。引用するとしても、引用の了解を得た上引用する監査結果を述べ、それを本件にあてはめたときにこの様に判断するとして初めて自ら下した監査委員の判断となります。
あたかも自分の判断かのように他の自治体の監査結果をコピーすることは、違法であるとか無いとか以前の監査委員の倫理観の問題であります。
更に監査結果には「その記述の内容と全く異なる記述をもって記載しなければならないという理由もないことから、違法、不当とまでいえるものではない。」としています。開き直りとも思われる主張です。
このような監査を行った背景には、住民監査請求に対する真摯な気持ちが欠如していることがあります。市民が心血を注いでおこした監査請求に対する、畏敬の気持ちが全く見られません。
③監査請求の実質的目的について
監査結果には「請求人の主張は、監査事務の執行上の問題から前監査委員を監査委員として任用することが適当でない旨主張しているに過ぎないものであって、住民監査請求は、地方公共団体の職員等による違法、不当な財務会計上の行為等の予防、是正等を図り、地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とするものであり、地方公共団体の一般的行政事務の執行の適否や責任の所在を明自にすること自体を本来の目的とするものではない。
以上のことから、本件請求は、地方自治法第242条第1項に規定する財務会計行為等には該当せず、その要件を満たさないものと判断する。」としています。
私は気持ちとしては、前監査委員の的確性に疑問を持っていますが、あくまでこの請求は監査を行わなかった事が違法・不当としてその間の報酬を受ける権利が無いとしておこした請求であり、この監査結果はまさしく拡大解釈で、これをもとに請求を却下することは不当な監査であります。
(3)今後の対応
最早監査委員にこの判断を託すことは困難となりました。
後は司法の判断を仰ぐのが唯一の手段です。訴訟期限は12月15日です。それまで十分考えてみたいと思います。
今回の監査結果(却下の通知)
和泉監第64号
平成18年11月16日
小林洋一様
和泉監査委員 阪広久
同 小野林治三夫
住民監査請求について(通知)
平成18年10月11日付けであなたから提出された地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第1項の規定に基づく住民監査請求につきましては、請求の内容を審査した結果、次の理由により住民監査請求の対象となりませんので通知します。
記
1請求の要旨
本件請求の内容を要約すると次のとおりである。
今般、平成18年9月15日付けで提出した住民監査請求に対して、請求を却下する旨の通知(平成18年10月2日付け和泉監第55号)がありましたが、却下の理由について不服があるので一部補正を加えて再度監査を請求します。
池野監査委員は、本件請求者が請求した平成18年4月5日付け議員への計報提供に関する住民監査請求において、必要な監査を実施せず、他の自治体の監査結果をコピーして監査委員の意見とした。このような行為は監査委員の責任の放棄であって、そのような者に報酬を支給することは不当であり、かつ、この報酬を受領した池野監査委員には、その限りにおいて不当利得を得ている。
和泉市はその返還を請求する権利を有するところ、この返還請求権は債権であって、地方自治法第237条第1項において、財産とは、公有財産、物品、債権、基金をいうとされ、地方公共団体の財産にあたり、報酬の返還を請求する権利を行使しないのは財産の管理を怠る事実であり住民監査請求の対象となるものである。
よって、市長が池野監査委員に対する不当利得の返還請求を怠ることが、違法であることの確認を求める。
なお、再監査請求ができる法的根拠として、最高裁判例平成10年(行ツ)第68号・損害賠償請求事件で以下の判決が出ているものである。
(1)監査委員が適法な住民監査請求を不適法であると却下した場合、当該請求をした住民は、適法な住民監査請求を経たものとして、直ちに住民訴訟を提起することができるのみならず、当該請求の対象とされた財務会計上の行為又は怠る事実と同一の財務会計上の行為又は怠る事実を対象として再度の住民監査請求をすることも許されるものと解すべきである。
(2)監査委員が住民監査請求を不適法であるとして却下した場合、当該請求をした住民が却下の理由に応じて必要な補正を加えるなどして、当該請求に係る財務会計上の行為又は怠る事実と同一の行為又は怠る事実を対象とする再度の住民監査請求に及ぶことは、請求を却下された者として当然の所為ということができる。
2 平成18年9月15日付け監査請求(以下「前回請求と,いう」)
前回請求は、議員への計報提供に関する住民監査請求'(平成18年4月5日付け提出、以下「計報監査」という。)において池野監査委員(以下「前監査委員」という)は必要な監査を実施せず、他の自治体の監査結果を不当にコピーして監査委員の意見としたが、このような行為は住民の市政への直接参加の権利を具現化する住民監査請求制度を蔑ろにする重大な背信行為であり、監査委員の職責を放棄したものであって、このような監査を実施した前監査委員への報酬の支給は違法、不当な公金の支出に当るとして委員報酬の返還を求めたものである。
前回請求における要件審査の結果(平成18年10月2日付和泉監第55号)、請求人の主張は、監査事務執行上の問題や監査委員の職責等を問題としているに過ぎず、いずれも本市の財務会計上の違法若しくは不当な行為を摘示するものではないことから、法第242条に規定する要件を満たさないものと判断し、請求人に通知した。
3地方自治法第242条第1項の要件に係る判断
(1)再度の監査請求
本件新たな住民監査請求において、対象としている返還請求権は、委員報酬の返還を求めた前回請求が不適法であるとして却下されたが、却下の理由に不服があるので、その一部を補正し、違法、不当な報酬を受領した前監査委員に不当利得が生じており、和泉市はその返還権を有しているにもかかわらず、損害賠償請求権(もしくは不当利得返還請求権)を行使しないのは財産の管理を怠る事実であるとして、「怠る事実」を対象として再度請求がなされたものである。
しかしながら、このように財務会計上の行為についてされた住民監査請求の対象と当該行為が違法無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実との関係について最高裁平成62年2月20日判決は、「普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の財務会計上の行為を違法、不当であるとしてその是正を求める住民監査請求は、特段の事情が認められない限り、当該行為が違法、無効であるであることに基づいて発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実についても含まれる」とし、また、「特定の財務会計上の行為が財務会計法規に違反して違法であるか又はこれが違法であって無効であるからこそ発生する実体法上の請求権を怠る事実を対象とするものである場合には、当該行為が違法とされて初めて当該請求権が発生するのであるから、監査委員は当該行為が違法であるか否かを判断しなければ当該怠る事実の監査を遂げることができないという関係にあるときは、当該行為を対象とする監査を求める趣旨を含むものとみざるを得ず」(最高裁平成14年7月2日判決)として、たとえそれが怠る事実につての監査請求として構成されていたとしても、その実質は、当該財務会計上の行為について監査を請求するものであり、怠る事実についての監査請求であるとすることはできないとされている。
これを今回の請求についてみると、前監査委員への報酬の支給という財務会計上の行為が違法、不当であって、そのことに基づいて発生する返還請求権の行使を怠る事実を対象とするものであるが、その実質は、監査委員への報酬の支給という当該財務会計上の行為についての監査を請求するものであり、これらは前回請求における請求の対象に包含され、本件請求において新たに主張する違法、不当事由が前回請求と異なるものの、結局のところ同一の当該行為を対象として重ねて行うものであって、別個の請求と認めることはできない。
(2)対象となる財務会計上の行為
そうすると、本件請求は違法・不当な公金の支出を対象として提出されたものと解されるに、監査委員の報酬等に関する法の規定をみると、地方自治法第203条は、監査委員等に対して報酬を支給しなければならないこと(第1項)、報酬の額並びに支給方法は条例でこれを定めなけばならないこと(第5項)が規定され、本市においては、この規定を受けた「特別職の職員で非常勤のものの報酬及び費用弁済に関する条例」に基づき支給されているが、監査委員に報酬等を支給すべきかどうかは、その支給が法律及び条例に適合するものかどうかによって判断されるものであり、前監査委員が監査委員としての地位を有していた以上、市長は報酬等を支給しなければならず、同条例に照らし違法に報酬が支給されたという事実もない。また、それらを疎明する事実証明の提出もないことや、監査が行われなかったという事実も存在しないことから、そもそも当該財務会計上の行為が法令上違反か否かの問題はなく、請求の対象を欠くというべきである。
(3)他の自治体の監査結果のコピーについて
請求人は、計報監査に関する監査結果は、他の自治体の監査結果をコピーしたものであり違法、不当である旨主張するが、監査委員が監査を行い、当該請求に理由があるかないかの結論を導くにあたって、同種案件に関する他の自治体の監査結果の内容や記述等も参考にすることや、その中に的確、適切な記述がなされている場合に、これをふまえてその記述と同様な記述をしたとしても、そのこと自体に明白な違法性は認められず、その記述の内容と全く異なる記述をもって記載しなければならないという理由もないことから、違法、不当とまでいえるものではない。
ところで、本件請求書の記載内容等を客観的、実質的に判断するに、つまると,ころ請求人の主張は、監査事務の執行上の問題から前監査委員を監査委員として任用することが適当でない旨主張しているに過ぎないものであって、住民監査請求は、地方公共団体の職員等による違法、不当な財務会計上の行為等の予防、是正等を図り、地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とするものであり、地方公共団体の一般的行政事務の執行の適否や責任の所在を明自にすること自体を本来の目的とするものではない。
以上のことから、本件請求は、地方自治法第242条第1項に規定する財務会計行為等には該当せず、その要件を満たさないものと判断する。
by onbuz
| 2006-11-24 17:41
| 監査委員を監査請求